Hands -EPISODE 2 06-
「セフィム様、人前でこんな事をされるなんて、いけません」
そういいながら、ミナはとても嬉しそうに笑って見せた。そこには、ミナ自信というものが無いように俺は見えた。彼女は、セフィムに心ごと奪われてしまったのだろうか……
「ウィムス、お前が俺様を殺す前に、俺様がどうやってここへ戻ってきたか知りたいだろう?」
セフィムは両手一杯を広げてそのいまいましい玉座をたたえた。
「知りたくもないね」
「まぁ、そういうな」
玉座から立ち上がった王は一瞬ミナを見つめ、それから視線を俺に戻した。セフィムが俺の目の前に止まり、羽根を羽ばたかせて宙に浮いたとき、俺の身体も奴の手によって同じ高さまで上っていった。
「こうして……」
セフィムは一度言葉を飲み込んで、ゆっくりと、懐かしげに話し始めた。
「こうして俺達は向かい合っていた。俺がお前と共にこの地にいる化物達と戦ったときも、人間を見張るバツを食らったときも……そして、俺がお前にココに来ると言ったときもだ。いつも俺達は向かい合い、沢山の事を語って夜を明かした。そうだろう?」
しばらくの間、俺は昔にもどった気がしていた。セフィムの声は、優しさに満ち溢れていた。どうしてこんな男が、今では闇の世界の王の座に在るのだろうか……どうして……
「どうして……お前は悲しさを憎むのだ。全ては一つだと、おまえ自身が言っていたのに。嬉しさ、哀しさ、怒りや優しさも、全ては同じなのだと、お前が一番わかっているはずだろう?」
俺の右手から、温かいものが流れてきた。ミナはそれを見て、はっとしたようだったが、セフィムは顔をしかめて俺をただ見つめるだけだった。
俺の右手は、生身の人間の体だった。
「神にお前は認められていたのに、どうして再び死を選ぶ?」
「天使の死が、本当の死だからだ。我々が死に走れば、神の記憶からもその名は消される。俺は、無がほしかった。なぜか見が俺に再びチャンスを与えたのか、解らない。正直、天国も地獄も必要ない。何のために俺は人間の命を捨てたと思う? こうしてこの世界にやってくるためじゃなかった。本当に俺は消えたかった。何もかも、消えてしまえばいいと思っていた」
「もう、俺の名は神の手には刻まれていないんだよ」
「たのむ……俺を殺してくれ……もう自由にしてくれ…・・俺の好きなように、無に帰してくれ」
顔を上に向け、肩を落とし、手足はだらしなく地に向けられたセフィムの身体は、もはや死を望みつづけた男の最後の姿となった。心臓に疲れた銀色の剣は俺と繋がっていた。
「殺してくれ……俺を殺してくれ……殺して……く、れ……」
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