Hands -EPISODE 2 07-
セフィムは最後の最期まで死を望んだ。
天使は、銀の剣ごときで、心臓が在った場所をつかれようが死にはしない。なにせその身体は神から直々に与えられ、いつも守られているのだから。しかし、神はセフィムを人間の身体に戻したか、あるいは命を奪い、今どこかで赤ん坊としてそのかけらを人間に与えたのか……それは神にしか解らない事だった。
「神よ……」
ミナは目に涙をうかべて俺を見た。彼女は白いワンピースを着ている。こんな暗い部屋の中だ、余計に彼女がまぶしくみえた。
「わたしはどうしたらいいのでしょうか……ウィムス……」
「光へ戻ろう、ミナ……君が光を浴びても死ななければ、神は君を忘れてはいない。それはわたしにもわからないが……でも、行こう」
この玉座から出たとき、セフィムが俺を守っていた事が解った。またあの耐えがたい苦痛が俺の身体に襲ってきたからだ。まだ彼の結界は崩れていないようだった。それがなんとも複雑でならなかった。髪が認めぬものの守りを受けていたからなのか、それとも腕の痛みがさらに増したからなのか、来た時よりもいっそう痛みは強まっていた。その足の遅い俺の後を、ミナがゆっくりとついて来ていた。
光と闇の境目に近づいた時、俺はだんだんと痛みが和らいでいくのを感じた。ただ、腕の痛みだけはどうしても取れなかった。それより、光に近づくほど酷くなっていくようだった。だが、俺の身体には神の力が満ち溢れ、足も軽かった。振り向くと、ミナが脅えたまなざしで俺を見ていた。
やっとの事で光に触れた時、俺の右腕は消えていた。もう、これはもどらないのだろう……今までしてきたことの代償…か。
「さぁ、こっちへおいで」
俺は振り返り、闇の中に手を差し伸べた。ミナは恐る恐るその手をつかもうと、光のほうへ手を出した。しかし、俺は目を疑った。彼女の手はひからびて、真っ黒に染まっていた。
「あぁ……」
彼女の手が、光に触れたとき、神は彼女を知らぬことが解った。光に存在しないものは……
「ミナ!」
ミナの手が俺に触れる前に、跡形もなくそれは、消えていった。
THE END
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