Hands -EPISODE 2 03-
次に俺がこの体で気が付いたときに、セフィム以外に少女がいた。真っ白なワンピースを着た、短髪の黒髪をまたあの風が揺らしていた。男はあいかわらず微動だにしないが、顔をあげて薄ら笑いを浮かべている。その視線は俺にではない。少女にだった。
俺はかろうじて光の中にいた。目の前に広がる闇を見ているだけで吐き気がする。すぐにでもここから走り去りたかった。だが俺には許されていなかった。いや、許せなかった。目の前にいるこの男が憎くて憎くてたまらない。確かに俺はこいつをこんな姿にさらし、極力光に近づけた。そしていつか消えていくのをこの目で見ようと、俺もココに居座った。
自分の分身とも思えた男を、俺は必ず消さなければならなかった。憎悪の情が俺の心を支配した。
少女はそんな俺と男の間で困惑していた。俺は彼女を知っていた。人間の俺が知っていた。彼女はここにいてはならない存在だった。こんな不安定な場所に、不安定な人間が入り込めばいつどうなるかわからない。もちろん彼女自身も消えてしまうかもしれない……
相変わらず吹いている風はいっそう強くなった。目の前の男はこちらに飲み込まれまいとさからった。少女はその様子を、俺と男とを交互に見比べた。
俺は必死にうったえた。帰れ、元の場所に戻れと。だがセフィムは違った。こっちへおいで、怖くないよ、といっていた。
少女はそこから消えていった。どうやら今回は俺の勝ちのようだった。セフィムは小さく鼻で笑うと、再び顔をふせた。
しばらくすると俺は彼女が目を覚ますのを見た。この光の世界ではない。人間が住む汚らしいところだった。髪は地球という美しい、とてつもなく美しい場所を与えたのに、人間はどうしてあんな狭苦しい場所を自ら作り住み着くのか……
「まだ終わってないよ、天使。物語はまだ……」
セフィムがここに来て初めて口をきいた。俺は懐かしい声の響きに胸が爆発しそうになった。
「黙れ……今こそおまえはまだそこにいられるのだぞ! それ以上口を叩くとこっちに引きずりおとしてやる!!」
黒い天使は狼のように歯をむき出して俺を睨みつけた。そう、いいこだ。俺はその場を後にした。
再び俺が光と闇の境目に出向いた時、セフィムはいなかった。闇の向こうに、ミサという女の気配も感じられた。とうとう女を連れ戻してしまったのか。
この天に戻ってきた時から徐々に記憶は戻ってきた。
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