Hands -EPISODE 2 02-





 目を覚ますと、彼女はいなかった。たしか昨夜、闇に震える彼女を抱きしめたまま眠りについたはずなのに。彼女は跡形もなく消えて島田。ベッドの上には、彼女を抱いたままの形をした俺と、彼女の枕だけだった。
「美奈……美奈……」
 俺はのろいの呪文をとなえるように彼女の名を呼んでいた。何度も何度も呼んでいた。そのうち俺は眠っていた。




 体が軽い。まるで、何も俺は着ていないような気持がしたが、かろうじて俺は白い一枚の布をまとっているようだ。俺が歩くたび、伸びきった髪の毛が邪魔くさい。
 どれだけ歩いただろう。いいかげん、汗ばんだ額に張り付いた髪がうっとおしい。第一、俺はいったい何処にむかっているのだろうか。歩いても、歩いても、何も変わらない場所を歩みつづける。目的地も、意味もわからないまま。

デジャヴ……?


 遠くに、闇がみえた。そして、その奥にはまた光が見えた。無気味にもゆる、ろうそくの火。俺はその火に導かれるように近づいた。顔をちかづけるとその小さな火は瞬く間に燃え上がる炎になった。
 一瞬見えた、ろうそくの向こうの鏡。そこに移るのは、まぎれもなく俺のはずなのに、見えたのは真っ黒な服をした見たこともない男だった。そいつは、だらしなく髪をたらし、口元からは赤い血を流している。そして、背中には青い翼を林その所々にはまた血がついている。他にもだらりと力なくおろしている両手に、服に、足元に……。

 良く見ると俺が動いても、そいつはまったく動こうとはしない。ということはこれは鏡ではないのか? 数センチ浮いた目の前の男は、闇の置くから吹く風に髪をなびかせている。一瞬詰めたい汗が背をはった。男の紙を揺らす風が俺にもあたる。俺のブロンドの長い髪はさらさらと風に身を任せていた。
 俺はしばらくそいつから目をはなすことはできなかった。



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