Hands -EPISODE 2 01-
私の意識は、そこから遠のこうとしていた。だが、私は完全に消えたわけではなかった。うっすらと、目の前に私を抱く王の姿が見える。私ではない私に、ひたすら愛の言葉を紡ぐ王の声が聞こえる。あぁ、私はまだ死ねないのね…最後まであの白い天使は私を自由にしてくれないのね…
しだいに私は変化していった。短い黒髪は腰を越えるほど長くなりその色は輝くシルバー色になった。背中に、もとい背骨に激痛が走り、首をひねるとそこには真っ白な羽が生えていた。何故だろう? 私はこの真っ黒な天使の王に愛された生き物。あんなことを言う王だ。彼にとって、わたしのように「白い羽根の生き物」は汚らわしくてたまらないのではないだろうか?
「あなたに忠誠を……セフィム様」
私なのにわたしではない私が口を開いた。セフィムと呼ばれた天使はいっそう強く私を抱きしめた。
「俺は…寂しかったんだ。お前が、お前が人間ごときに取られそうで……こわかった、お前を失いたくない……よかった、本当に良かった、お前が戻ってきてくれて……」
セフィムはそのうち泣き出した。母親に抱き付きべそをかく子供のように。セフィムは立派な王座の目の前で私にしがみついていた。
「セフィム様、セフィム様……落ち着いてください、大丈夫ですよ、私は今戻ったんですから……」
私も今一度セフィムを抱き返した。二人は再び結ばれたのだ。私はそれをTVドラマを見ているようにながめていた。しばらくするとセフィムは息を整え、名残惜しそうに私から身を引いた。そしてもう一度口付けをした。その唇は心なしか震えていた。今回はなんとも優しく、私を求めるような口付けだった。
この二面性を持つ男は、本当にまるで子供のようだった。だがしだいにかれは”暗黒の王”になっていく。少し上気していたほおはもう元に戻り、涙を流していた瞳もその黒髪に隠れて表情は読み取れない。ただ、彼は力に満ちていた。
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