Hands -EPISODE1 05-
適当に入ったファミレスで、俺はパスタを、美奈はハンバーグをたのんだ。注文をしたにもかかわらず、彼女は楽しそうにメニューに釘付けだ。俺は特にすることがなくなり、近くの客を眺めていた。
向かいの客は若いカップルで、どうやら高校生のようだ。女のほうは携帯を手放そうとしない。終始メールが受信しているか気にしているようだった。今の俺と同じように、男はつまらなそうにしている。しばらくすると先にこちらのほうの料理が運ばれてきた。
「うまい?」
「うん、とっても」
「そう、よかった」
美奈はハンバーグを口にいれたまま、満面の笑みで答えた。その口についたソースを指でぬぐってやると、また恥ずかしそうな顔を見せた。これじゃあまるで彼氏彼女みたいだ。
まだよくわからないけど、美奈はかわいい。突然表れた天使のような彼女は、また突然どこかへ行ってしまいそうで……深入りするな、という自分が、美奈に恋する俺を止める。かかわるな、と、もう一人の……俺はそういっている。
「じゃ、帰るか。おい、大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫……」
「少し無理しすぎたかな、悪りぃ。」
具合の悪そうな彼女を、耐え切れなくなって抱きしめる。この少し肌寒い時間に彼女のぬくもりは心地よかった。
「背中、のんな」
「え、いや、大丈夫ですぅ。歩けます、走れます、飛べます」
「無理だろ全部」
俺は強引に美奈に背中を向けてじっと、背中が重くなるのを待った。しばらくしても載ってこない美奈を振り返り
「早ようのんないと、強引に連れてくけど、いいのか?」
「え、いやっ その……あうー……」
しぶしぶ美奈は、俺の背中に寄りかかる。ソレを俺はひょいと持ち上げて、後ろでもがく美奈にかまわず古ぼけたアパートへと向かった。美奈は最近温かくなった。はじめてであったときは氷のように冷たかったのに……今は身体も瞳も、見違えるようにあたたかい。ただ、彼女は寝ているときだけは氷付けにされたように、冷たく横になっている。彼女は眠りに着いている間、どこか違う場所に居るのだろうか。
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